会社の設立や事業拡大を検討する際、定款の「事業目的」の書き方で悩んでいませんか?
事業目的は、単なる手続き上の項目ではなく、許認可の取得や金融機関からの融資、将来の事業展開にまで影響を及ぼす、会社の未来を左右する重要な要素です。
本記事では、事業目的を定める際の4大原則から、IT・建設・飲食業など業種別の具体例、将来を見据えた戦略的な書き方の注意点、そして事業目的の追加・変更手続きまでを完全ガイド。
この記事を読めば、あなたの会社の成長を後押しする、最適な事業目的の記載方法がすべてわかります。
会社の憲法「定款」と事業目的の重要性
会社設立という大きな一歩を踏み出す際、事業計画や資金調達に意識が向きがちですが、それらと同じくらい、あるいはそれ以上に会社の未来を左右する重要な書類があります。
それが「定款(ていかん)」です。
特に、定款に記載する「事業目的」は、会社の活動範囲を定め、社会的な信用を築くための根幹となります。
この章では、会社の憲法とも呼ばれる定款と、その中でも特に重要な事業目的が会社経営にどのような影響を与えるのかを詳しく解説します。
定款とは何か
定款とは、会社の組織や運営に関する根本的なルールを定めた書類のことです。
会社の商号(社名)、事業内容、本社の所在地、役員の構成といった基本情報から、株式の取り扱いや利益の配当方法まで、会社を運営していく上でのあらゆる決まり事が記載されています。
まさしく「会社の憲法」であり、経営者も従業員も株主も、この定款に定められたルールに従って活動することになります。
定款に記載する事項は、その重要度に応じて「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つに分類されます。
| 記載事項の種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 絶対的記載事項 | 記載がなければ定款自体が無効になる、最も重要な項目。 | 事業目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額又はその最低額、発起人の氏名及び住所 |
| 相対的記載事項 | 記載がなくても定款は有効だが、記載しなければその効力が認められない項目。 | 株式の譲渡制限に関する規定、役員の任期の伸長、株主総会以外の招集通知期間の短縮 |
| 任意的記載事項 | 法律に違反しない範囲で、会社が任意に定めることができる項目。記載しなくても定款の効力に影響はない。 | 事業年度、役員の員数、定時株主総会の招集時期 |
これらの項目を適切に定めることが、円滑な会社運営の第一歩となります。
事業目的が会社経営に与える影響
絶対的記載事項の中でも、特に「事業目的」は会社のアイデンティティそのものであり、経営に多岐にわたる影響を及ぼします。
まず、事業目的は会社の「活動範囲」を法的に定義するものです。
定款に記載されていない事業を会社として行うことは、原則としてできません。
もし定款の範囲外の事業で取引を行った場合、その契約が無効と判断されるリスクもゼロではありません。
次に、事業目的は「対外的な信用力」を測る指標となります。金融機関が融資を審査する際や、企業が新たな取引先と契約を結ぶ際には、必ず登記簿謄本(登記事項証明書)を確認し、その会社の事業目的をチェックします。
事業目的が曖昧であったり、実態とかけ離れていたりすると、「この会社は一体何をしているのか分からない」と判断され、融資や取引を断られる原因になりかねません。
さらに、建設業、飲食業、古物商、人材派遣業など、事業を行うために国や都道府県から「許認可」が必要な業種があります。
これらの許認可を申請する際には、定款の事業目的に、当該許認可事業を行う旨が明確に記載されていることが絶対条件となります。
記載がなければ、許認可の申請自体が受理されません。
このように、事業目的は単なる形式的な記載事項ではなく、会社の活動そのものを規定し、資金調達、取引、事業拡大といったあらゆる経営活動の土台となる、極めて重要な要素なのです。
定款の事業目的を記載する上での4大原則

会社の事業目的は、設立者が自由に決められると思われがちですが、実は会社法や商業登記法に基づいたルールが存在します。
法務局での登記手続きをスムーズに進め、将来の事業展開に支障をきたさないためにも、これから解説する「4つの大原則」を必ず押さえておきましょう。
これらの原則は、会社の信頼性にも直結する重要なポイントです。
原則1 適法性
事業目的の第一原則は「適法性」です。
これは、事業内容が法律に違反していないこと、そして公の秩序や善良な風俗(公序良俗)に反していないことを意味します。
当たり前のことのように聞こえますが、登記申請において非常に厳しくチェックされる項目です。
例えば、「賭博の運営」「詐欺行為の代行」「武器の密輸」といった犯罪行為はもちろん、「脱法行為のコンサルティング」など、法律の趣旨に反するような事業も認められません。
法律や公序良俗に反する事業は、そもそも会社として登記することができません。
もし登記官が事業目的に違法性や反社会性があると判断した場合、登記申請は却下されてしまいます。
事業目的を検討する際は、その事業が日本の法律の範囲内で適正に行えるものであるかを確認することが大前提となります。
原則2 営利性
株式会社や合同会社は、事業を通じて利益を生み出し、その利益を構成員(株主など)に分配することを目的とする「営利法人」です。
そのため、定款に記載する事業目的も「営利性」を持っている必要があります。
「ボランティア活動」や「寄付活動」といった非営利活動のみを事業目的として掲げることはできません。
これらはNPO法人(特定非営利活動法人)などが担う領域です。
ただし、企業の社会的責任(CSR)の一環として、利益活動と並行して社会貢献活動を行うことは可能です。
その場合は、あくまで営利事業が主であり、非営利的な活動はそれに付随するものとして記載するなどの工夫が必要です。
株式会社は利益を上げて株主に配当することが前提であるため、事業目的には必ず利益を追求する意思が明確に示されていなければなりません。
原則3 明確性
事業目的は、専門家でなくとも、誰が読んでもその事業内容を客観的に理解できる「明確性」が求められます。
これは、会社の事業内容を公示する「登記」の役割を考えれば当然のことです。
取引先、金融機関、顧客、株主といった第三者が登記事項証明書(登記簿謄本)を見た際に、その会社が何をしているのかを正確に把握できなければならないのです。
一般的でない略語や造語、抽象的すぎる表現は避け、平易な言葉で記載する必要があります。
第三者が見て、何をしている会社なのかを客観的に理解できる日本語で記載することが、明確性の本質です。
登記官が意味を理解できないと判断した場合、補正を求められることがあります。
| 悪い例(曖昧な表現) | 良い例(明確な表現) | 理由 |
|---|---|---|
| DXに関するコンサルティング | 中小企業を対象としたデジタルトランスフォーメーション導入支援及び経営コンサルティング | 「DX」が何を指すか、「誰に」対して行うのかが不明確。「デジタルトランスフォーメーション」と正式名称を使い、対象を明記することで明確になる。 |
| クリエイティブ事業 | ウェブサイト、ロゴ、広告物の企画、デザイン及び制作 | 「クリエイティブ」では範囲が広すぎる。具体的に何を制作するのかを列挙することで、事業内容が明確になる。 |
| 総合サービス業 | 飲食店の経営、清掃業務の請負、人材派遣業 | 「総合サービス業」という業種は存在しない。実際に行う事業を具体的に一つずつ記載する必要がある。 |
原則4 具体性
「具体性」は、明確性と密接に関連しますが、より一歩踏み込んだ原則です。
事業内容が単に理解できるだけでなく、どのような方法で事業を行うのかが具体的にイメージできるレベルで記載されている必要があります。
漠然とした表現では、実際にどのような事業活動を行うのかが不明瞭であり、登記が認められない可能性があります。
例えば、単に「商業」や「販売業」と記載するだけでは不十分です。
「衣料品、雑貨の輸入及び販売」「インターネットを利用した通信販売業」のように、何を、どのようにして販売するのかを具体的に示す必要があります。
特に許認可が必要な事業を行う場合、この具体性が登記や許認可取得の可否を直接左右します。
例えば、建設業許可を取りたいのであれば「建設工事の請負、設計及び施工」、古物商の許可が必要なら「古物の売買」といったように、許認可を管轄する行政庁が求める特定の文言を事業目的に含める必要があります。
将来的に許認可の取得を考えている事業がある場合は、事前に専門家である行政書士や司法書士に相談し、適切な文言を確認しておくことが極めて重要です。
【保存版】事業目的の具体例を業種別に紹介

会社の憲法である定款、その中でも事業目的は会社の顔とも言える重要な項目です。
登記された事業目的は、誰でも閲覧できるため、取引先や金融機関が会社を評価する際の判断材料となります。
ここでは、様々な業種における事業目的の具体的な記載例を紹介します。
自社の事業内容に近いものを参考にし、将来の事業展開も見据えながら、過不足なく記載することが成功の鍵となります。
最後に記載する「附帯事業」の一文も非常に重要です。
IT・情報通信業の事業目的
IT・情報通信業は技術の進歩が速く、事業内容が多岐にわたるのが特徴です。
設立当初の事業だけでなく、将来的に展開する可能性のあるサービスも幅広く記載しておくと、後の変更手続きの手間を省けます。
| 事業分類 | 事業目的の記載例 |
|---|---|
| ソフトウェア・アプリ開発 | コンピュータソフトウェア、アプリケーションソフトウェアの企画、設計、開発、販売、保守及びコンサルティング |
| Webサイト・Webサービス | ウェブサイト、ウェブコンテンツ及びデジタルコンテンツの企画、制作、運営、管理及び販売 |
| システム開発・SES | 情報処理システム、通信システムの企画、設計、開発、販売、賃貸、保守及びコンサルティング |
| コンサルティング | ITに関するコンサルティング業務及び各種情報の収集、分析、提供サービス |
| 広告・マーケティング | インターネットを利用した広告代理店業及び各種マーケティング業務 |
| その他 | 情報通信機器の販売及びレンタル |
| 附帯事業 | 前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
人材サービス業の事業目的
人材サービス業は、「労働者派遣事業」や「有料職業紹介事業」など、許認可が必要な事業が多く含まれます。
許認可を申請する際には、定款の事業目的にその事業を行う旨が明確に記載されている必要があります。
管轄の行政機関に確認しながら、正確な文言で記載しましょう。
| 事業分類 | 事業目的の記載例 |
|---|---|
| 労働者派遣事業 | 労働者派遣事業法に基づく労働者派遣事業 |
| 有料職業紹介事業 | 職業安定法に基づく有料職業紹介事業 |
| コンサルティング | 企業経営、人事、労務に関するコンサルティング業務 |
| 研修・教育 | 各種セミナー、研修の企画、開催及び運営 |
| アウトソーシング | 事務処理、営業、経理等の業務請負及び受託 |
| 附帯事業 | 前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
飲食店の事業目的
飲食店経営を主軸としつつ、テイクアウトやデリバリー、オンラインでの商品販売など、事業の多角化を視野に入れた記載がポイントです。
将来的に店舗展開やフランチャイズ化を考えている場合、それらも目的として加えておくとスムーズです。
| 事業分類 | 事業目的の記載例 |
|---|---|
| 店舗運営 | 飲食店の経営、企画及び運営 |
| 食品販売 | 食料品、飲料、酒類の企画、製造、加工及び販売 |
| デリバリー・ケータリング | 弁当、惣菜の調理、宅配及びケータリングサービス |
| ECサイト運営 | インターネットを利用した通信販売業 |
| コンサルティング | 飲食店開業及び経営に関するコンサルティング業務 |
| フランチャイズ | フランチャイズチェーンシステムによる飲食店の経営及び加盟店の募集、指導 |
| 附帯事業 | 前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
建設業の事業目的
建設業を営む場合、建設業法に基づく許可が必要となります。
許可を受けたい業種が事業目的に明記されていることが、許可申請の絶対条件です。
将来取得する可能性のある業種も漏れなく記載しましょう。
また、不動産取引など関連性の高い事業も入れておくのが一般的です。
| 事業分類 | 事業目的の記載例 |
|---|---|
| 建設工事全般 | 建設業法に基づく建設工事の請負、設計、施工、監理及びコンサルティング |
| 具体的な工事種別 | 土木一式工事、建築一式工事、大工工事、内装仕上工事、電気工事、管工事等の企画、設計、施工及び監理 |
| 不動産業 | 宅地建物取引業法に基づく不動産の売買、賃貸、仲介及び管理 |
| リフォーム | 建築物の増改築、リフォーム及びメンテナンス業務 |
| 資材販売 | 建築資材、住宅設備機器の販売及び輸出入 |
| 附帯事業 | 前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
その他様々な業種の事業目的例
上記以外にも、世の中には多種多様なビジネスが存在します。
ここでは、様々な業種の事業目的の記載例を一覧でご紹介します。
ご自身の事業に最も近いものを探し、アレンジしてご活用ください。
| 業種 | 事業目的の記載例 |
|---|---|
| コンサルティング業 | 経営コンサルティング業務マーケティングに関する調査、企画及びコンサルティング業務各種セミナー、講演会、研修の企画、立案及び実施前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
| 小売業(アパレルなど) | 衣料品、服飾雑貨、アクセサリー等の企画、製造、販売及び輸出入インターネット等を利用した通信販売業古物の売買前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
| 不動産業 | 宅地建物取引業法に基づく不動産の売買、交換、賃貸借及びその仲介並びに管理不動産に関するコンサルティング損害保険代理業及び生命保険の募集に関する業務前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
| 美容・健康関連事業 | 美容室、エステティックサロン、ネイルサロンの経営化粧品、美容機器、健康食品の企画、製造及び販売美容及び健康に関するコンサルティング業務前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
| 介護・福祉事業 | 介護保険法に基づく居宅サービス事業、地域密着型サービス事業及び居宅介護支援事業障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業介護用品、福祉用具の販売及びレンタル前各号に附帯又は関連する一切の事業 |
定款の事業目的を定める際の戦略的な注意点

定款の事業目的は、単に「会社が何をするか」を記すだけではありません。
会社の将来性や社会的信用、さらには資金調達にも影響を与える極めて戦略的な項目です。
ここでは、会社設立時および運営時において、事業目的を定める際に押さえておくべき3つの戦略的な注意点を詳しく解説します。
将来の事業拡大を見越した記載方法
会社を設立する際、現在すぐに始める事業だけを事業目的に記載するのは得策ではありません。
なぜなら、将来事業を拡大・追加しようとするたびに、事業目的の変更手続きが必要になるからです。
目的変更には、株主総会での決議や法務局での変更登記申請が必要となり、登録免許税として3万円の費用もかかります。
このような手間とコストを避けるためにも、設立時点で、将来的に手がける可能性のある事業をあらかじめ盛り込んでおくことが賢明な戦略です。
例えば、最初はWebサイト制作を主軸に事業を始める場合でも、以下のように将来の展開を見越した事業目的を加えておくと良いでしょう。
- ウェブサイト、ウェブコンテンツ及びホームページの企画、デザイン、開発、制作、販売、運営及び管理
- インターネットを利用した広告業及びマーケティングリサーチ業務
- 各種イベントの企画、制作、運営
- ITコンサルティング業務
- 上記に関連する研修及びセミナーの開催
ただし、事業目的を無秩序に増やしすぎると、会社の専門性がぼやけてしまい、取引先や金融機関から「何が本業の会社なのか分からない」という印象を与えかねません。
事業目的の数は、多くても10〜15個程度に絞り、関連性のある事業でまとめるのが一般的です。
そして、事業目的の末尾には、「その他前各号に附帯又は関連する一切の事業」という一文(バスケット条項)を必ず記載しましょう。
これは、記載した各事業に付随して発生する業務全般をカバーするための非常に重要な条項です。
この一文があることで、事業目的の範囲を柔軟に解釈できるようになります。
許認可事業と事業目的の書き方の注意点
特定の事業を行うためには、国や地方公共団体から「許可」「認可」「届出」など(許認可)を得る必要があります。
例えば、建設業、古物商、飲食店、人材派遣業、介護事業などがこれに該当します。
これらの許認可を申請する際、行政機関は、定款の事業目的にその事業を行う旨が明確に記載されているかを確認します。
もし適切な記載がなければ、許認可の申請自体が受理されません。
そのため、許認可が必要な事業を計画している場合は、事業目的の文言に細心の注意を払う必要があります。
最も確実な方法は、許認可を管轄する行政機関(都道府県庁、保健所、警察署など)のウェブサイトや手引きを確認し、指定された通りの文言を記載することです。
自己流の表現で記載すると、後から定款変更を求められる可能性があるため、必ず事前に確認しましょう。
以下に、主要な許認可事業と事業目的の記載例をまとめました。
| 許認可事業の種類 | 事業目的の記載例 | 主な管轄行政機関 |
|---|---|---|
| 古物商 | 古物営業法に基づく古物の売買及び交換 | 警察署(公安委員会) |
| 飲食店営業 | 飲食店の経営 | 保健所 |
| 建設業 | 建設業法に基づく建設工事の設計、施工、監理及び請負 | 都道府県知事または国土交通大臣 |
| 一般労働者派遣事業 | 労働者派遣事業法に基づく一般労働者派遣事業 | 厚生労働省(労働局) |
| 宅地建物取引業 | 宅地建物取引業法に基づく宅地建物の売買、交換、賃貸及びその代理又は媒介 | 都道府県知事または国土交通大臣 |
将来的にこれらの許認可事業に参入する可能性がある場合も、会社設立の段階で事業目的に含めておくことで、将来の手続きをスムーズに進めることができます。
金融機関からの融資を意識した注意点
日本政策金融公庫や民間の銀行などから融資を受ける際、金融機関は必ず定款をチェックします。
事業目的は、その会社がどのような事業で収益を上げようとしているのか、事業に一貫性や将来性があるのかを判断するための重要な材料となります。
融資審査において、事業目的は以下のような観点で見られます。
- 事業内容の明確性:これから融資を受けて行おうとしている事業が、事業目的として明確に記載されているか。記載がなければ、融資の対象事業と見なされない可能性があります。
- 事業の一貫性と専門性:事業目的が多岐にわたりすぎたり、相互の関連性が乏しかったりすると、「事業の軸が定まっていない」「経営資源が分散してしまうのでは」といった懸念を持たれることがあります。本業と関連性の高い事業で構成されている方が、専門性が高く評価されやすくなります。
- 事業の実現可能性:資本金の額や会社の規模に対して、あまりにも壮大すぎる事業目的が並んでいると、計画性に疑問符が付くことがあります。事業の実態に即した内容であることが重要です。
したがって、融資を円滑に進めるためには、事業の実態と将来計画に即した、一貫性のある事業目的を記載することが不可欠です。
特に、創業融資を申し込む際は、これから始める事業内容が誰の目にも明らかになるように、具体的かつ分かりやすく記載することを心がけましょう。
事業目的を適切に設定することは、会社の信用力を高め、円滑な資金調達へとつながる第一歩なのです。
会社の成長に合わせた事業目的の追加・変更手続き

会社設立時に定めた事業目的も、会社の成長や市場の変化に伴い、見直しが必要になることがあります。
新規事業への進出、事業の多角化、あるいは許認可の取得など、会社の未来を切り拓くためには、定款の事業目的を柔軟に追加・変更する手続きが不可欠です。
この章では、事業目的の変更が必要になる具体的なタイミングから、法務局への登記申請までの詳細な流れ、そして見落としがちな注意点と費用について、ステップごとに詳しく解説します。
事業目的の変更が必要となるタイミング
事業目的の変更は、会社の戦略上、非常に重要な意思決定です。
具体的には、以下のようなタイミングで変更手続きを検討する必要があります。
- 新しい事業を開始するとき: 定款に記載されていない全く新しい分野のビジネスを始める際は、事業目的の追加が必須です。
例えば、IT企業が新たにコンサルティング事業を手掛ける場合などが該当します。 - 許認可が必要な事業に参入するとき: 建設業、宅地建物取引業、古物商、人材派遣業、飲食業など、行政庁からの許認可が必要な事業を始める場合、定款の事業目的にその事業内容が明記されていることが許認可の前提条件となります。
- 金融機関から融資を受けるとき: 新規事業のために融資を申し込む際、その事業が定款の目的に含まれていることが、金融機関の審査において重要な判断材料となります。
事業計画の信頼性を担保するためにも、事前の変更が望ましいです。 - 事業の多角化や将来の展開に備えるとき: 現在は行っていなくても、将来的に参入する可能性のある事業をあらかじめ追加しておくことで、スピーディーな事業展開が可能になります。
- 取引先から定款の提示を求められたとき: 大企業との取引など、コンプライアンスを重視する企業からは、契約にあたって登記事項証明書(登記簿謄本)の提出を求められることがあります。
取引内容と事業目的が一致していることで、企業の信頼性が高まります。
株主総会から登記申請までの流れ
定款の事業目的を変更するには、法務局で変更登記の手続きを行う必要があります。
その手続きは、一般的に以下の流れで進めます。
- 株主総会の招集と特別決議定款の変更は、会社の根幹に関わる重要事項であるため、株主総会の「特別決議」が必要です。
特別決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成をもって可決されます。
この要件を満たせるよう、事前に株主へ議案を通知し、総会を招集します。 - 株主総会議事録の作成株主総会で事業目的の変更が可決されたら、その証明書類として「株主総会議事録」を作成します。
この議事録は、後の登記申請で法務局に提出する必須書類です。
開催日時、場所、出席役員・株主数、議案、決議の結果などを正確に記載し、議長および出席取締役が記名・押印します。 - 変更登記申請書の作成法務局に提出するための「株式会社変更登記申請書」を作成します。
申請書には、会社の基本情報、登記の事由(「令和◯年◯月◯日事業目的の変更」など)、登記すべき事項(変更後の事業目的全文)、登録免許税額、添付書類などを記載します。
様式は法務局のウェブサイトからダウンロードできます。 - 法務局への登記申請株主総会での決議から2週間以内に、会社の本店所在地を管轄する法務局へ変更登記の申請を行います。
この期限を過ぎると「登記懈怠(とうきけたい)」となり、過料(罰金)の対象となる可能性があるため注意が必要です。申請は、法務局の窓口に直接持参するほか、郵送やオンラインでも可能です。【主な提出書類】- 株式会社変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- (代理人に依頼する場合)委任状
- 登記完了と登記事項証明書の取得申請後、法務局での審査を経て、通常1週間から2週間程度で登記が完了します。
登記が完了したら、必ず「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得し、事業目的が正しく変更されているかを確認しましょう。
事業目的の変更に関する注意点と費用
事業目的の変更手続きをスムーズに進めるためには、いくつかの注意点を押さえ、必要な費用を把握しておくことが重要です。
手続き上の注意点
まず、最も注意すべきは「登記申請の期限」です。前述の通り、株主総会の決議から2週間以内に申請を完了させる必要があります。
また、許認可が必要な事業を追加した場合は、登記変更が完了した後に、管轄の行政庁へ別途、許認可の申請手続きを行わなければなりません。
登記変更だけでは事業を開始できない点を理解しておきましょう。
手続きに不安がある場合や、時間を節約したい場合は、司法書士などの専門家に依頼することも有効な選択肢です。
変更にかかる費用
事業目的の変更には、主に以下の費用が発生します。
特に、法務局に納める登録免許税は必ず必要になる費用です。
| 費用項目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 30,000円 | 事業目的の変更登記1申請あたりにかかる税金です。 |
| 司法書士への報酬 | 30,000円~60,000円程度 | 手続きを専門家に依頼する場合に発生します。事務所によって料金は異なります。 |
| 登記事項証明書の取得費用 | 1通480円~600円 | 変更内容の確認のために取得します。オンライン申請・郵送の場合は480円、窓口請求の場合は600円です。 |
会社の成長フェーズに合わせて事業目的を適切に見直すことは、経営戦略そのものです。
手続きの流れと注意点を正確に理解し、計画的に変更を進めていきましょう。
まとめ
会社の憲法である定款において、事業目的は会社の活動範囲を法的に定め、経営の方向性を示す羅針盤です。
設立時には「適法性・営利性・明確性・具体性」の4原則を守りつつ、将来の事業拡大も見据えて幅広く記載することが重要です。
なぜなら、事業目的は許認可の取得や金融機関からの融資審査にも影響し、後から追加・変更するには株主総会の特別決議や登記変更といった手間と費用がかかるためです。
本記事を参考に、会社の成長フェーズに合わせた戦略的な事業目的を設定・管理しましょう。
