本業を続けながら会社設立を目指す方が増加している今、多くの会社員が「どのように準備を進めればよいのか」「本業と両立できるのか」といった悩みを抱えています。
この記事では、在職中の会社設立において必要な法的手続きから、実務的なノウハウまでを徹底解説します。
副業・兼業の規制緩和により、2018年以降、在職中に起業するケースは年々増加。
その背景には、将来的な独立への準備や、副収入確保のニーズの高まりがあります。
会社設立の具体的な手順や必要な資金、就業規則の確認から競業避止義務への対応まで、成功のためのポイントを解説。
電子定款の活用や法人設立オンラインシステムの利用など、効率的な設立方法もご紹介します。
この記事を読めば、在職中の会社設立を確実に成功させるためのロードマップが手に入ります。
在職中の会社設立が増加している背景と注意点
近年、在職中に会社を設立する会社員が急増しています。
経済産業省の調査によると、2020年以降、副業として会社を設立する会社員の数は前年比で30%以上増加しており、特に20代後半から30代の若手会社員による起業が目立っています。
副業解禁の流れと会社設立のメリット
2018年の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の策定以降、大手企業を中心に副業を認める企業が増加しています。
株式会社リクルートの調査では、副業を認める企業の割合は2021年時点で45%を超えており、年々増加傾向にあります。
在職中の会社設立には、以下のようなメリットがあります。
メリットの種類 | 具体的な内容 |
---|---|
収入面 | 本業の給与に加えて追加収入が得られる |
リスク管理 | 本業があることで経済的安定性を保てる |
スキル開発 | 経営者としての経験を積める |
ネットワーク | 異業種との人脈形成が可能 |
在職中に会社設立する際の主なリスク
一方で、在職中の会社設立には注意すべきリスクも存在します。
最も重要なのは、本業への影響です。労働時間の管理が不適切になると、本業のパフォーマンスが低下する可能性があります。
また、以下のような法的・実務的なリスクにも注意が必要です。
リスク区分 | 具体的な内容 | 対策 |
---|---|---|
法的リスク | 就業規則違反 | 事前の確認と許可取得 |
健康リスク | 過重労働 | 適切な時間管理 |
経営リスク | 資金繰り悪化 | 事業計画の綿密な策定 |
評判リスク | 社内での信用低下 | 透明性の確保 |
特に注意が必要なのは、企業秘密や個人情報の取り扱いです。
本業で得た情報を新会社で利用することは、厳重に避けなければなりません。
また、確定申告や社会保険の手続きなど、行政手続面での追加的な事務負担も発生します。
さらに、成長企業に多い、ストックオプション制度を利用している場合は、権利行使の制限に関する確認も必要です。
多くの企業では、競合他社での就業や起業を制限する条項が設けられているためです。
在職中の会社設立で必要な準備と手順
在職中に会社を設立するためには、計画的な準備と正確な手順の理解が不可欠です。
この章では、会社設立に必要な具体的なステップと注意点を詳しく解説します。
会社設立の基本的な流れ
会社設立の全体の流れは、大きく分けて以下の6つのステップで進みます。
ステップ | 所要期間 | 主な作業内容 |
---|---|---|
1. 事業計画の策定 | 1〜2ヶ月 | ビジネスモデルの構築、資金計画の立案 |
2. 会社の基本事項決定 | 2週間程度 | 商号、本店所在地、事業目的の決定 |
3. 定款作成 | 1週間程度 | 電子定款の作成、公証役場での認証 |
4. 資本金の準備 | 1週間程度 | 専用口座の開設、資本金の払い込み |
5. 登記申請書類作成 | 2週間程度 | 必要書類の収集と作成 |
6. 登記申請・完了 | 2週間程度 | 法務局への申請、登記完了 |
必要な資金と時間の見積もり
会社設立には、以下のような資金が必要となります。
最低限必要な費用から、より確実な立ち上げのための推奨額まで、段階的に検討することをお勧めします。
費用項目 | 最低額 | 推奨額 |
---|---|---|
資本金 | 1円〜 | 100万円以上 |
定款認証費用 | 約5万円 | 同左 |
登録免許税 | 15万円 | 同左 |
その他諸経費 | 5万円程度 | 20万円程度 |
時間的な面では、平日の活動が制限される会社員の場合、通常の2倍程度の期間を見込んでおく必要があります。
残業の少ない時期や長期休暇を利用して集中的に進めることをお勧めします。
定款作成から登記申請までの具体的なステップ
定款作成は会社設立の要となる重要なステップです。
電子定款作成ソフト「法人設立オンラインシステム」を利用することで、夜間や休日でも作業を進めることができます。
登記申請に必要な書類は以下の通りです。
- 定款
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
- 資本金払込証明書
- 本店所在地証明書類
- 代表者の住所証明書
これらの書類は、法務局のウェブサイトからダウンロードできるフォーマットを活用することで、効率的に準備することができます。
特に在職中の場合は、書類の準備を計画的に進めることが重要です。
また、登記申請時には「法人設立オンラインシステム」を利用することで、24時間365日申請が可能となり、窓口への来訪時間を削減できます。
システムの利用には事前の利用者登録と電子証明書の取得が必要ですが、長期的に見れば時間の節約になります。
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会社員の身分で気をつけるべき法的制限
会社員として在職中に会社設立を検討する際、最も重要なのが法的制限の確認です。
安易に進めると思わぬトラブルを招く可能性があるため、慎重な対応が求められます。
就業規則の確認ポイント
まず確認すべきは現在の勤務先の就業規則です。
多くの企業では副業・兼業に関する規定を設けており、これに違反すると懲戒処分の対象となる可能性があります。
確認項目 | 主なチェックポイント |
---|---|
副業・兼業規定 | 完全禁止か許可制か、対象となる業務範囲 |
労働時間制限 | 副業時の労働時間上限、休日労働の制限 |
情報管理規定 | 企業秘密の取り扱い、情報利用の制限 |
競業避止義務への対応
競業避止義務は、会社員が在職中に本業と競合する事業を行うことを制限する義務です。
特に同業種での起業を検討している場合は慎重な判断が必要です。
具体的な判断基準として、以下の要素を総合的に考慮する必要があります。
- 事業内容の重複度
- 取引先や顧客層の重複
- 地理的な営業範囲の重複
- 技術やノウハウの類似性
副業・兼業の会社への申請方法
副業・兼業を認めている企業であっても、正式な申請手続きが必要です。
一般的な申請の流れは以下の通りです。
申請ステップ | 具体的な内容 |
---|---|
事前相談 | 直属の上司への相談、人事部門への打診 |
申請書類作成 | 副業内容、予定時間、収入見込みの明記 |
審査期間 | 通常2週間〜1ヶ月程度 |
申請時には以下の点に特に注意が必要です。
- 本業への影響を最小限に抑える具体的な方策
- 労働時間管理の方法
- 情報管理体制
- 健康管理への配慮
なお、副業・兼業が認められた後も、定期的な報告や状況の更新が求められる場合が多いため、継続的なコミュニケーションを心がける必要があります。
また、事業が軌道に乗り始めた際の本業との両立方針についても、前もって検討しておくことが望ましいでしょう。
効率的な会社設立の進め方とツールの活用
会社設立の手続きは、近年のデジタル化により大幅に効率化されています。
本章では、時間に制約のある会社員が活用できる便利なツールや専門家への相談方法について詳しく解説します。
電子定款や法人設立オンラインシステムの使い方
法務省が提供する「法人設立オンラインシステム」を利用することで、会社設立に必要な各種手続きをインターネット上で完結させることができます。
従来の紙での申請と比べ、手続き時間を約半分に短縮できるメリットがあります。
電子定款の作成では、「GビズID」を取得することで、以下の手順で効率的に進められます。
- GビズIDの取得:2〜3営業日
- 電子証明書の取得:1〜2営業日
- 定款情報の入力:1〜2時間
- 電子署名の付与:30分程度
オンラインシステムでは、「freee」や「マネーフォワード」などのクラウド会計ソフトとの連携も可能で、設立後の会計処理もスムーズに行えます。
司法書士や行政書士への相談のタイミング
専門家への相談は、会社設立の確実性を高め、手続きの負担を軽減します。
特に在職中の場合、時間的制約があるため、適切なタイミングでの相談が重要です。
専門家への相談で確認すべきポイント
以下の項目について、特に詳しく確認することをお勧めします。
- 会社の事業内容と現職との利益相反の有無
- 定款作成時の注意点
- 役員構成の適切性
- 資本金の設定根拠
- 税務上の留意点
費用相場と選び方
専門家への依頼費用は、サービス内容により大きく異なります。
一般的な相場は以下の通りです。
サービス内容 | 費用目安(税抜) | 所要期間 |
---|---|---|
定款作成のみ | 3〜5万円 | 1〜2日 |
登記申請代行 | 10〜15万円 | 2〜3週間 |
設立手続き一括代行 | 20〜30万円 | 3〜4週間 |
専門家選びでは、以下の点に注意して選定することをお勧めします。
- オンライン対応の可否
- 夜間・休日の対応可否
- 過去の会社設立支援実績
- 料金体系の透明性
- アフターフォローの充実度
特に在職中の会社設立では、時間的制約を考慮し、オンライン面談に対応している事務所を選ぶことで、より効率的に進めることができます。
在職中の会社運営を成功させるためのポイント
在職中に会社を運営するには、本業との両立が最大の課題となります。
限られた時間と労力を最大限に活用するためのノウハウをご紹介します。
時間管理と優先順位の付け方
効率的な時間管理は、在職中の会社運営の成否を分ける重要な要素です。
本業の業務時間を確保しつつ、新会社の運営時間を確保するためには、以下のような時間管理の仕組みづくりが必要です。
時間帯 | 推奨する業務内容 |
---|---|
早朝(6:00-8:00) | メール対応、事務作業 |
昼休み(12:00-13:00) | 取引先との電話対応 |
夜間(20:00-22:00) | 商品開発、企画立案 |
優先順位の付け方としては、「重要度×緊急度」のマトリックスを活用し、特に売上に直結する業務を優先的に処理することが推奨されます。
業務効率化ツールの活用法
業務効率化には、適切なツールの選定と活用が不可欠です。
以下のツールの組み合わせにより、作業時間を大幅に削減できます。
- クラウド会計ソフト:freee、MFクラウド
- プロジェクト管理:Trello、Notion
- コミュニケーション:Slack、Chatwork
- 顧客管理:HubSpot、Salesforce
特に会計業務は、本業との両立において大きな負担となるため、自動仕訳機能を備えたクラウド会計ソフトの導入が推奨されます。
従業員の採用と育成の進め方
人材の採用と育成は、会社の成長に直結する重要な要素です。
在職中の採用活動では、以下の点に注意が必要です。
採用チャネル | 特徴と活用ポイント |
---|---|
クラウドソーシング | 業務単位で依頼可能、即戦力の確保 |
副業人材マッチング | 専門性の高い人材の確保、柔軟な勤務形態 |
人材紹介会社 | 正社員採用、質の高い人材確保 |
育成においては、オンラインツールを活用したマニュアル作成や、リモートでの定期的なミーティングの実施が効果的です。
特にLoom等の動画マニュアル作成ツールを活用することで、時間の制約がある中でも効率的な教育が可能となります。
また、業務の標準化とマニュアル化は、将来的な事業拡大を見据える上で非常に重要です。
Google WorkspaceやMicrosoft 365などのクラウドツールを活用し、ナレッジの蓄積と共有を進めることで、持続可能な組織づくりが可能となります。
まとめ
在職中の会社設立は、副業・兼業の規制緩和により以前より取り組みやすくなっています。
ただし、就業規則の確認や競業避止義務への対応など、慎重な準備が必要です。
会社設立の具体的な手順としては、法人設立オンラインシステムやGビズIDの活用で、従来より効率的に進められるようになりました。
時間の制約がある中での会社運営には、Slackやクラウドワークスなどのツールを活用した業務効率化が不可欠です。
専門家への相談は、会社設立の初期段階で税務や法務面での適切なアドバイスを得られる重要な機会となります。
本業との両立を図りながら会社を軌道に乗せるには、明確な優先順位付けと時間管理、そして信頼できる従業員の採用・育成が成功のカギとなります。