個人事業主にとっての消費税免除制度とは
消費税免除の基本ルール
消費税免除とは、一定の条件を満たした個人事業主が課税事業者として消費税の納付義務を免除される制度です。
この制度は、事業開始当初や事業規模が小さい個人事業主の事業運営にかかる税負担を軽減し、円滑なスタートや成長促進を目的としています。
日本の消費税法上、事業者は消費税の納税義務者に該当しますが、下記の表の条件に当てはまる場合には、その納付を2年間免除されます。
特に「課税売上高が一定金額以下」という基準が重要なポイントとなります。
区分 | 免除の内容 | 根拠法 |
---|---|---|
新規開業時 | 開業から最長2年間、消費税の納税義務が免除 | 消費税法第9条 |
課税売上高が1,000万円以下 | 前々年(又は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の場合は免除対象 | 消費税法第9条、附則13条 |
この制度を利用することで、起業直後の負担を軽くし、事業に集中できる環境が整えられています。
免税期間が2年とされる理由
個人事業主が消費税免除を開業から最長で2年間受けられる理由は、課税売上高の判定基準と深い関係があります。
消費税法では、前年または前々年(通常は前々年)の課税売上高で納税義務の有無を判定するため、開業後最初の2年間は比較する売上高が存在せず、自動的に免税事業者扱いとなるのです。
また、2年間という期間設定には小規模事業者の支援という目的もあります。事業の立ち上げ期は売上が不安定になりやすいことから、税負担を一定期間免除することで経営の安定化を図る意味合いが含まれています。
このような法的・経済的背景に基づき、個人事業主にとって消費税免除の2年間は資金繰りや経営計画を立てる上での大きなメリットとなるのです。
消費税免除2年の適用条件を知ろう

消費税免除制度は、個人事業主として新規に開業する場合に、特定の条件を満たすことで「開業から2年間消費税の納税義務が免除される」という仕組みです。
しかし、この2年間の免除を受けるためにはいくつかの「適用条件」が定められており、知らずに手続きを進めてしまうと後から思わぬ課税を受ける可能性があるため、事前によく確認することが重要です。
課税売上高の基準
消費税免除の最大のポイントは、「課税売上高」にあります。
前々年の課税売上高が1,000万円以下であれば消費税の納税義務が免除される、というルールです。
ただし、開業1年目および2年目は前々年の実績がないため、ほとんどの場合で消費税が免除となります。
開業3年目からは前々年の売上高が1,000万円を超えると「課税事業者」となり、消費税の納付義務が発生する点に注意しましょう。
年度 | 判定に使う売上期間 | 消費税納税義務 |
---|---|---|
1年目 | 売上実績なし | 免除(無条件) |
2年目 | 前々年実績なし | 免除(無条件) |
3年目 | 開業1年目 | 売上1,000万円超で納税義務発生 |
課税売上高の判断には、商品の売上だけでなく役務提供(サービス料等)など、課税対象になる取引全てを含める必要があります。
また、売掛金や未収金も含めた金額となるため、会計処理にも注意しましょう。
開業日のタイミングと免税期間
消費税免除期間の「2年」は、開業した日からその年の12月31日までを最初の1年目、翌年の1月1日から12月31日までを2年目とカウントします。
たとえば、令和6年4月1日に開業した場合、令和6年(4月1日~12月31日)と令和7年(1月1日~12月31日)が免除期間となります。この点を表にまとめると以下の通りです。
開業日 | 1年目の期間 | 2年目の期間 | 免除終了 |
---|---|---|---|
令和6年4月1日 | 令和6年4月1日~12月31日 | 令和7年1月1日~12月31日 | 令和8年1月1日~ |
令和6年12月1日 | 令和6年12月1日~12月31日 | 令和7年1月1日~12月31日 | 令和8年1月1日~ |
年の途中で開業してもその年が1年目にカウントされるため、年内の開業日によっては実質的な免税期間が短くなる点も理解しておきましょう。
消費税課税事業者選択届出書について
消費税免除の2年間はデフォルトで誰でも適用されますが、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出することで、任意で課税事業者になることも可能です。
これは特定の事情(主に取引先へのインボイス対応や大きな設備投資による還付を受ける場合など)で選択するケースがあります。
ただし、一度選択すると、2年間は撤回できないため、慎重な判断が求められます。
提出の有無 | 免税/課税 | 注意点 |
---|---|---|
提出しない | 免税事業者(2年間) | 自動的に消費税納税義務が免除 |
提出する | 課税事業者(選択後は2年継続) | インボイス発行や還付申請が可能だが、納税義務発生 |
インボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートしたことにより、免税事業者の立場にも変化が生じており、「課税事業者の選択」が以前に比べて重要な判断事項になっています。
消費税免除2年を申請する方法

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の提出
個人事業主が新たに事業を開始する場合、消費税免除2年の特典を受けるための最初のステップは、「個人事業の開業・廃業等届出書」(いわゆる開業届)を税務署へ提出することです。
この手続きは、開業日から1か月以内に行うことが推奨されています。
なお、開業届の提出をもって消費税免除2年が自動的に適用されますので、特別な「免除申請」のための書類は必要ありません。
開業届には、事業開始日、屋号、事業内容、事業所所在地などを記載し、マイナンバーや本人確認書類も添付します。
事業を開始する税務署の窓口だけでなく、e-Taxや郵送でも提出が可能です。
申請に必要な書類と手続きの流れ
消費税免除2年の枠組みを活用するために必要な手続きと書類は以下の通りです。
提出書類名 | 提出期限 | 提出先 | 備考 |
---|---|---|---|
個人事業の開業・廃業等届出書 | 開業から1か月以内 | 所轄の税務署 | 消費税免税2年の自動適用に必要 |
青色申告承認申請書(任意) | 開業日から2か月以内 | 所轄の税務署 | 青色申告特別控除等を希望する場合 |
消費税課税事業者選択届出書(任意) | 課税を選択したい場合のみ | 所轄の税務署 | 免税事業者でなく課税事業者を希望する場合のみ提出 |
個人事業主として標準の場合、上記のうち必須となるのは開業届のみです。
ただし、消費税の還付などを受けたい場合や、あえて課税事業者を選ぶ場合は「消費税課税事業者選択届出書」も提出が必要です。
手続きの流れは大まかに以下の通りとなります。
- 事業開始
- 必要書類を用意(開業届・本人確認書類等)
- 税務署窓口・e-Taxまたは郵送で提出
- 控えを受領し保存
申請時の注意事項
開業届の提出が遅れると、本来受けられる消費税免除2年の期間の起算日がずれてしまう場合があります。
また、開業届の提出日が遅れたときは、税務署に個別事情を説明し、事業開始日を証明する書類(請求書・契約書など)の提示を求められることもあります。
さらに、インボイス(適格請求書)制度開始以降は、消費税免除事業者のままだと取引先が仕入税額控除を受けられなくなる場合があるため、自ら課税事業者を選択するかどうかも慎重に判断しましょう。
この判断には今後の売上予測や、主要取引先の意向も勘案が必要です。
また、「消費税課税事業者選択届出書」を一度提出した場合、2年間は免税事業者に戻ることができませんので、ご注意ください。
消費税免除2年の制度は、あくまで「前年または前々年の課税売上高が1,000万円以下」の場合に適用されますので、売上が急増した場合は適用除外となることがあります。
経理状況は常に最新に保っておきましょう。
消費税免除2年を活用する際の注意点

個人事業主が消費税免除2年の制度を最大限に活用するためには、いくつか重要な注意点を理解しておく必要があります。
下記で、免除期間終了後の対応や新しいインボイス制度との関係、また課税事業者の選択に関するポイントを詳しく解説します。
免除期間終了後の対応
消費税免除の2年が終了した後、事業規模によっては自動的に消費税課税事業者となります。
免税期間が終了すると、前々年または前年の課税売上高が1,000万円を超えていれば、消費税の納税義務が発生します。
年度 | 課税売上高 (前々年分) | 消費税の取扱い |
---|---|---|
開業~1年目 | 0円 | 免税事業者 |
2年目 | 0円 | 免税事業者 |
3年目以降 | 1,000万円超 | 課税事業者に |
3年目以降 | 1,000万円以下 | 免税事業者のまま |
免税期間終了直後には、売上高をしっかり把握し、必要に応じて納税資金の確保や帳簿管理体制を整備しておくことが重要です。
インボイス制度との関係
2023年10月から開始されたインボイス(適格請求書)制度は、消費税の取り扱いに新たな影響を与えています。
免税事業者はインボイス発行事業者になれないため、取引先がインボイスを必要とする場合、課税事業者への変更を求められるケースがあります。
実際に、以下の点に注意が必要です。
- 取引先が法人中心であればインボイス発行の可否が大きく影響。課税事業者の登録により、受注や取引先維持への安心感が増す場合もあります。
- 免税事業者のままでは、消費税分を転嫁しづらくなったり、取引機会を失うおそれも考えられます。
今後の事業展開を鑑みて、インボイス登録のタイミングやその有無を検討するのが賢明です。
課税事業者の選択とそれぞれのメリット・デメリット
免税期間中でも「消費税課税事業者選択届出書」を提出すれば、自主的に課税事業者になることが可能です。
これは事業内容や取引先の需要次第で有利に働くこともあれば、デメリットになることもあります。
区分 | メリット | デメリット |
---|---|---|
免税事業者のまま | 消費税の納税義務がないため利益率が高い事務負担が軽い | インボイス発行不可で取引の機会損失の恐れ仕入れにかかる消費税分の控除が使えない |
課税事業者を選択 | インボイス発行事業者となれる仕入れ・設備投資の消費税分の控除ができる大口取引先との契約維持につながる | 消費税の納付義務が生じる煩雑な帳簿管理・申告業務が必須 |
自分の事業の取引内容や売上規模を見極めて有利な選択をしましょう。
また一度課税事業者を選択すると、2年間は免税事業者へ戻れないため、慎重な判断が求められます。
よくある質問

申請を忘れた場合はどうなるか
つまり、個人事業主が開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を税務署へ提出し、一定条件(基準期間の課税売上高が1,000万円以下など)を満たしていれば、別途消費税免除のための特別な申請書を提出し忘れたとしても、2年間は消費税が免除されます。
ただし、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となることを選択した場合は、忘れると免税期間のメリットを受けられないため、慎重な判断が必要です。
個人事業主から法人化した場合の扱い
法人として新たに設立した場合は、原則2年間は消費税が免税される制度が適用されますが、資本金が1,000万円以上の場合や、特定の設立パターンでは例外もありますので注意が必要です(例えば、設立時の資本金が1,000万円以上の場合は1期目から課税事業者になります)。
フリーランスや副業の場合でも免除されるか
ただし、会社員として給与を受けている部分は事業所得ではなく、あくまで「開業した個人事業」に関する売上が基準です。
副業でもフリーランスでも、個人事業主として認められれば、最長2年間の免税措置が適用されます。
フリーランス・副業における消費税免除のポイント一覧
区分 | 免税対象 | 注意点 |
---|---|---|
フリーランス(専業) | 開業届提出&課税売上高1,000万円以下なら免除 | 原則2年間は消費税納税義務なし |
副業 | 個人事業主としての売上のみカウント | 会社員の給与分は含めない |
まとめ
個人事業主の消費税免除2年制度は、開業初期の資金負担を軽減できる重要な制度です。
課税売上高や手続きの流れを正確に把握し、インボイス制度や将来的な課税事業者への移行も意識して準備しましょう。
正しい知識で事業運営を行うことが成功への第一歩です。