会社設立を考えている方にとって、「株式会社」と「個人事業主」のどちらを選ぶかは重要な経営判断です。
本記事では、株式会社のメリット・デメリットを徹底的に解説し、個人事業主との違いも詳しく比較します。
信用力の向上や資金調達のしやすさなど、株式会社ならではの5つのメリットと、設立費用や事務手続きの負担といった4つのデメリットを具体的に説明。
さらに、1円から設立可能になった最低資本金制度や、会社法に基づく設立手続きの流れまで、実務に即した情報をわかりやすく解説します。
これから起業を目指す方はもちろん、個人事業主から法人成りを検討している方まで、株式会社設立の判断材料として必要な情報を網羅的にまとめています。
株式会社設立を検討する前に押さえておきたい基礎知識
株式会社とは何か
株式会社は、会社法に基づいて設立される法人格を持つ組織です。
株主から資本を集め、その出資額に応じて株式を発行し、事業活動を行う営利法人となります。
日本において最も一般的な会社形態であり、大企業からスタートアップまで幅広く採用されています。
株式会社の特徴として、株主の責任が限定されていること、会社財産と個人財産が明確に区別されること、そして法人として独立した権利義務の主体となることが挙げられます。
例えば、トヨタ自動車株式会社やソニーグループ株式会社のような大企業から、地域の中小企業まで、多くの企業がこの形態を選択しています。
株式会社設立の基本要件
要件項目 | 必要条件 |
---|---|
発起人 | 1名以上 |
取締役 | 1名以上 |
資本金 | 1円以上 |
本店所在地 | 日本国内の住所 |
株式会社を設立するためには、発起人となる人物、取締役の選任、会社の本店所在地、そして資本金が必要です。
2006年の会社法改正により、最低資本金制度が撤廃され、1円からでも会社設立が可能となりました。
会社法における株式会社の位置づけ
会社法では、株式会社を「株式会社、合名会社、合資会社、合同会社」という4つの会社類型の一つとして位置づけています。
特に株式会社は、他の会社形態と比べて以下のような特徴を持っています。
特徴 | 内容 |
---|---|
所有と経営の分離 | 株主が所有者、取締役が経営者として明確に分離 |
有限責任制 | 株主の責任は出資額までに限定 |
株式譲渡の自由 | 原則として株式の譲渡が自由 |
機関設計の柔軟性 | 会社規模に応じて統治機構を選択可能 |
株式会社は、会社法第2条第1号に定義される営利法人であり、株主総会、取締役、会計参与、監査役、会計監査人などの機関を設置することができます。
特に公開会社の場合は、証券取引所に上場することで、一般から広く資本を集めることが可能となります。
また、会社法では株式会社の経営の透明性を確保するため、計算書類の作成・保管、事業報告の作成、株主総会の開催など、様々な義務が定められています。
これらの法的要件を満たすことで、株式会社は社会的な信用を獲得し、安定した事業運営を行うことができます。
株式会社のメリット5選
株式会社には、事業を展開する上で多くのメリットがあります。
ここでは主要な5つのメリットについて詳しく解説していきます。
信用力の向上
株式会社の最大のメリットは、社会的な信用力が格段に向上することです。
取引先や金融機関との関係において、個人事業主と比べて高い信頼を得やすく、大口の取引や契約を獲得しやすくなります。
特に以下のような場面で信用力の違いが顕著に表れます。
取引シーン | 株式会社のメリット |
---|---|
大手企業との取引 | 取引審査が通りやすい |
不動産契約 | オフィス物件の契約がスムーズ |
人材採用 | 優秀な人材が応募しやすい |
資金調達がしやすい
株式会社は様々な方法で資金を調達することができます。
株式発行による増資や、社債の発行、銀行からの融資など、資金調達の選択肢が広がります。
◆主な資金調達方法として…
- 金融機関からの融資
- 株式の発行による資金調達
- 社債の発行
- ベンチャーキャピタルからの投資
- クラウドファンディング
節税効果が期待できる
株式会社化することで、様々な税制上の優遇措置を活用できます。
例えば、経費計上の幅が広がり、役員報酬の損金算入が可能になります。
項目 | 節税効果 |
---|---|
役員報酬 | 定期同額給与として経費計上可能 |
福利厚生費 | 社会保険料の法人負担分を経費計上 |
交際費 | 一定額まで損金算入可能 |
事業承継がスムーズ
株式の譲渡により、比較的容易に事業承継を行うことができます。
個人事業主の場合と異なり、事業用資産の所有権移転や許認可の再取得などの煩雑な手続きを避けることができます。
◆事業承継における主なメリット
- 株式譲渡による円滑な承継
- 分割相続が可能
- 種類株式の活用による議決権の調整
- 相続税の納税資金対策が立てやすい
従業員の雇用がしやすい
株式会社は個人事業主と比べて、従業員の採用や定着において優位性があります。
社会保険の完備や福利厚生の充実を図りやすく、長期的な人材確保が可能です。
◆雇用面での具体的なメリット
- 社会保険制度の完備
- 退職金制度の整備
- ストックオプション制度の導入可能
- キャリアパスの設計がしやすい
- 従業員の独立リスクの軽減
さらに、従業員のモチベーション向上策として以下のような制度も導入しやすくなります。
制度 | 内容 |
---|---|
役員登用制度 | 優秀な従業員の取締役への登用 |
業績連動型給与 | 会社の業績に応じた給与支給 |
従業員持株会 | 従業員の株式保有制度 |
株式会社のデメリット4選
株式会社には多くのメリットがある一方で、経営者が知っておくべき重要なデメリットも存在します。
ここでは主な4つのデメリットについて詳しく解説していきます。
設立費用が高額
株式会社の設立には、一般的に20万円から30万円程度の費用が必要となります。
主な費用内訳は以下の通りです。
費用項目 | 金額目安 | 備考 |
---|---|---|
定款認証費用 | 50,000円 | 公証人役場に支払う手数料 |
登録免許税 | 150,000円 | 資本金の0.7%(最低15万円) |
印鑑証明書取得 | 1,500円 | 代表者の印鑑証明 |
その他諸経費 | 30,000円程度 | 登記簿謄本、印鑑作成費用など |
事務手続きの負担が大きい
株式会社では、法令で定められた様々な事務手続きが必要となります。
特に以下の業務が定期的に発生します。
- 株主総会の開催(年1回以上)
- 取締役会の開催(定期的)
- 決算書類の作成と保管
- 各種届出書の提出
- 社会保険関連の手続き
これらの手続きには専門的な知識が必要となるため、多くの場合、税理士や社会保険労務士などの専門家に依頼することになり、継続的なコストが発生します。
法人税などの納税義務
株式会社には様々な税金が課されます。主な税金は以下の通りです。
税金の種類 | 課税対象 | 税率 |
---|---|---|
法人税 | 課税所得 | 15%〜23.2% |
法人住民税 | 課税所得 | 地域により異なる |
法人事業税 | 課税所得 | 事業規模により異なる |
消費税 | 売上高 | 10%(軽減税率8%) |
特に、赤字でも固定資産税や均等割の住民税は必ず発生するため、経営が厳しい時期でも一定の税負担は避けられません。
解散時の手続きが複雑
株式会社を解散する場合、以下のような複雑な手続きが必要となります。
- 株主総会での解散決議
- 官報での解散公告
- 債権者保護手続き
- 清算人の選任
- 清算結了登記
- 税務署への清算確定申告
これらの手続きには通常2〜3ヶ月以上かかり、弁護士や税理士への相談が必要となるケースも多く、解散時にも相当のコストが発生します。
さらに、未払いの債務がある場合は、すべての清算が完了するまで解散することができません。
また、解散後も帳簿などの保存義務が10年間継続するため、保管場所の確保なども考慮する必要があります。
個人事業主と株式会社の違いを比較
個人事業主と株式会社では、経営形態に大きな違いがあります。
ここでは主要な違いについて詳しく解説していきます。
設立手続きの違い
個人事業主と株式会社では、設立に必要な手続きが大きく異なります。
個人事業主の場合は、開業届の提出のみで開業が可能です。
一方、株式会社の設立には、定款の作成や公証人役場での認証、法務局への登記申請など、複数の手続きが必要となります。
比較項目 | 個人事業主 | 株式会社 |
---|---|---|
必要書類 | 開業届、事業開始等申告書 | 定款、登記申請書、印鑑証明書など多数 |
手続き期間 | 即日〜数日 | 2週間〜1ヶ月程度 |
費用 | 無料〜数千円 | 20万円〜50万円程度 |
資金調達方法の違い
資金調達方法においても、両者には大きな違いがあります。
株式会社では、株式発行による資金調達や、金融機関からの融資を受けやすいというメリットがあります。
一方、個人事業主の場合は、主に個人資産や個人向けローンに頼ることになります。
調達方法 | 個人事業主 | 株式会社 |
---|---|---|
株式発行 | 不可 | 可能 |
社債発行 | 不可 | 可能 |
銀行融資 | 個人向け融資が中心 | 法人向け融資が利用可能 |
税負担の違い
税負担の面では、個人事業主は所得税が課税され、株式会社は法人税が課税されます。
所得税は累進課税制度が適用されるため、収入が多くなるほど税率が上がりますが、法人税は一定の税率が適用されます。
項目 | 個人事業主 | 株式会社 |
---|---|---|
主な税金 | 所得税(5%〜45%) | 法人税(15%〜23.2%) |
社会保険 | 国民健康保険、国民年金 | 健康保険、厚生年金 |
確定申告 | 青色申告または白色申告 | 法人税申告 |
経営責任の範囲
経営責任の範囲は、両者で大きく異なります。
個人事業主の場合、事業上の債務や損失に対して個人の全財産をもって責任を負います。
一方、株式会社では原則として会社の債務と個人の財産は分離されており、出資額の範囲内で責任を負います。
項目 | 個人事業主 | 株式会社 |
---|---|---|
責任範囲 | 無限責任 | 有限責任 |
対象財産 | 事業用財産および個人財産 | 会社財産のみ |
破産時の影響 | 個人破産となる可能性あり | 会社破産のみ |
このように、個人事業主と株式会社では、設立手続きから経営責任まで、様々な面で大きな違いがあります。
事業規模や将来の展望に応じて、適切な形態を選択することが重要です。
株式会社設立の具体的な流れ
株式会社の設立は、大きく分けて4つのステップで進められます。
それぞれの手続きを確実に行うことで、スムーズな会社設立が可能となります。
必要書類の準備
株式会社設立には多くの書類が必要です。
まずは発起人の印鑑証明書や住民票といった本人確認書類を用意します。
また、会社の実印と印鑑証明書も必要となります。
書類の種類 | 必要部数 | 備考 |
---|---|---|
印鑑証明書 | 2通 | 発行から3ヶ月以内のもの |
住民票 | 1通 | 発行から3ヶ月以内のもの |
身分証明書のコピー | 1通 | 運転免許証など |
定款作成と公証人役場での認証
定款は会社の基本規則を定めた書類です。
会社の目的、商号、本店所在地、資本金額などの重要事項を記載します。
作成した定款は公証人役場で認証を受ける必要があります。
定款認証の際には以下の費用が必要となります。
費用項目 | 金額 |
---|---|
定款認証手数料 | 50,000円 |
定款印紙代 | 40,000円 |
資本金の払い込み
発起人は設立時に決めた資本金を払い込む必要があります。
払込先の銀行で専用口座を開設し、資本金を入金します。
入金後、銀行から「資本金払込証明書」を発行してもらいます。
資本金払込の注意点
払込手続きは原則として発起人本人が行う必要があります。
また、払込金額は定款に記載された金額と完全に一致している必要があります。
登記申請の手続き
すべての準備が整ったら、管轄の法務局で設立登記を申請します。
登記申請には以下の書類が必要です。
必要書類 | 注意事項 |
---|---|
設立登記申請書 | 所定の様式に従って作成 |
定款 | 公証人の認証済みのもの |
資本金払込証明書 | 銀行発行のオリジナル |
印鑑届出書 | 代表取締役の実印を押印 |
登記申請後、通常1〜2週間程度で登記が完了します。
登記完了後、法務局から登記簿謄本が発行され、これにより正式に株式会社が設立されたことになります。
登記完了後の手続き
会社設立後は、税務署への法人設立届出書の提出や、社会保険への加入手続きなど、各種行政手続きを行う必要があります。
また、会社印鑑の作成や、事業で使用する銀行口座の開設なども必要となります。
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よくある質問と回答
最低資本金はいくら必要ですか
2006年の会社法改正により、株式会社の最低資本金の規制は撤廃されました。
理論上は1円から株式会社を設立することが可能です。
ただし、実務的には以下の点を考慮して資本金額を決定することをお勧めします。
資本金額 | 特徴と留意点 |
---|---|
100万円未満 | 税務上の優遇措置を受けられない可能性があり、取引先からの信用度も比較的低い |
100万円以上300万円未満 | 一般的な資本金額として認知され、青色申告特別控除なども受けやすい |
300万円以上 | 信用力が高く、大手企業との取引も比較的容易 |
一人で株式会社は設立できますか
会社法上、一人株式会社(一人会社)の設立は可能です。
発起人は1名でも問題ありません。
ただし、以下の点に注意が必要です。
取締役は最低1名必要で、その取締役が唯一の株主となることも可能です。
監査役の設置は任意ですが、会計参与を設置する場合は税理士か公認会計士の資格が必要となります。
ただし、実務上は次の課題に直面する可能性があります。
- 金融機関からの融資を受けにくい
- 取引先との契約時に個人保証を求められやすい
- 急な事業承継への対応が難しい
設立後すぐに屋号変更はできますか
株式会社の商号(屋号)変更は、設立後いつでも可能です。
ただし、以下の手続きが必要となります。
手続き項目 | 必要書類・費用 | 所要期間 |
---|---|---|
株主総会決議 | 株主総会議事録 | 1日 |
定款変更 | 変更定款、公証人手数料約5万円 | 1-2日 |
登記申請 | 登録免許税、約3万円 | 2週間程度 |
変更後は、銀行口座、取引先への通知、各種許認可の変更手続きなども必要となります。
また、商号変更に伴う印鑑の再登録や、会社印の作り直しなども検討が必要です。
決算期の変更は可能ですか
決算期の変更は可能です。定款変更と登記申請が必要となり、株主総会の特別決議を経る必要があります。
ただし、課税期間の調整や各種届出が必要となるため、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
役員報酬はいつから受け取れますか
役員報酬は、株主総会で決定した報酬額の範囲内で、設立後すぐに受け取ることが可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 報酬額は定期同額給与の要件を満たす必要がある
- 業績連動給与を導入する場合は事前の規定が必要
- 過大役員報酬は税務上否認される可能性がある
また、役員報酬の相場は、業界や会社規模、業績などを考慮して決定することが望ましいでしょう。
まとめ
株式会社の設立は、事業の発展を目指す企業家にとって重要な意思決定となります。
信用力の向上や資金調達の容易さ、事業承継のしやすさなど、株式会社化には多くのメリットがあります。
一方で、設立時に必要な費用や事務手続きの負担、法人としての納税義務など、考慮すべきデメリットも存在します。
個人事業主と比較すると、三菱UFJ銀行や日本政策金融公庫からの融資を受けやすく、大手企業との取引もスムーズに進めやすいというメリットがあります。
ただし、国税庁への確定申告や法務局への登記など、行政手続きの負担は大きくなります。
事業規模や将来の展望、資金計画などを総合的に判断し、自社に適した事業形態を選択することが重要です。
専門家への相談や事前の十分な準備を経て、慎重に株式会社設立を検討することをお勧めします。